ここ何年も計画しては行けなかった南アルプスの深淵部にある「塩見岳」。麓の駐車場で車中泊をして、早朝に登山開始、その日のうちに下山をして帰るという日帰りにチャレンジしました。天気は雨でしたが、山頂では奇跡的に展望もあり、なかなか思い出深い登山となりました。
【塩見岳】
長野県・静岡県、標高3052m、百名山。
南アルプスの深部に位置する山で、アプローチが長くてなかなか行きにくい山です。通常は三伏小屋に1泊〜2泊して行くケースが多いのですが、今回は日帰りにチャレンジ。駐車場から休憩込みでコースタイムの0.8出歩いて12時間弱かかる、ちょっとハードな道のりでした。
登山レベル:★★★★☆ (中上級 ※日帰りだと体力が必要)
【山バッチ】
塩見小屋で売っています。
【行程】
鳥倉駐車場(4:15)→鳥倉登山口(4:50)→2合目(5:17)→三伏小屋(6:50/7:05)→三伏山(7:16)→本谷山(8:00)→塩見小屋(9:30/9:40)→塩見岳山頂(10:30/11:00)→塩見小屋(11:37/11:50)→本谷山(12:50)→三伏山(13:30)→三伏小屋(13:40/13:50)→鳥倉登山口(15:20)→鳥倉駐車場(15:57) ※休憩込みで11時間40分程度
大雨の駐車場、絶望的な登頂・・・
東京方面から車で鳥倉の駐車場に21時に到着しました。駐車場は南アルプスの深い森の中、街頭もない真っ暗闇。どこにトイレがあるかもわからないくらいです。
でも登山客の車で駐車場はほぼ満車。朝から登っている登山客の車なのか人の気配はありませんでした。
今回はコースタイムだと14時間50分のところを、休憩込みで12時間で行く予定の日帰り超ロングルートのため、早朝3時には出発することにして、車で仮眠をとりました。
2時半に目覚まし時計をかけて起きたら、外は大雨。車に打ち付ける豪雨の音に、これは出発できない・・・やめたほうがいいかも・・・と思いながら様子をみていると、3時半には雨が止みました。・・・どうする?行く?行かない?とメンバーで悩みつつも、折角ここまで来たのだからとりあえず行ってみることに。
途中大雨になったら引き返すつもりで、4時過ぎに駐車場を出発しました。
最初は林道を30分程度で歩きます。林道は曲がりくねる緩い上り坂。あたりは霧が立ち込めて展望はなく、風雨に晒されて剥がれかけたコンクリートで固められた崖の横を通り過ぎ、4時50分に登山口である鳥倉のバス停に到着しました。
ここまで雨に降られず、とりあえずは三伏峠までトレーニングを兼ねて登ってみようと、わりと消極的な気持ちで登山を開始します。
鳥倉登山口から三伏小屋へ
シダが生い茂る霧の山の中を登って行くと「10/1」の道標がでてきました。登山はここから開始なのか・・・と、がっくりしながらも、登り始めます。湿度が高く、かなり蒸し暑いので、すぐに汗が流れでて頬をつたいました。
「10/2」を過ぎたあたりから、また雨音がし始め、かなり本降りになってきました。レインウエアを着るか迷いましたが暑いし、樹林帯ななのでそんなに濡れないだろうという判断のもと、そのまま登り続けます。
道標は「10/3」になると、標高が高くなったのか少し涼しくなってきました。雨も降っているため涼しさは倍増。登るには良い気温でしたが、雨がひどくて「三伏小屋」で引き返そう・・・そんな雰囲気がメンバー内に漂っていました。
登山口から三伏峠までは直登の急坂だけかと思いきや、山を横切るトラバースの道もあり、ひたすら登りが続くわけではありません。おかげで息抜きもできて個人的には登りやすく感じました。
登山口の標高が1630m、三伏峠が2580mで1000m近い標高差があるのですが、あまり登った!と感じなかったのはそのためかもしれません。
途中「仏の湧き水」で、本場の南アルプス天然水をいただきます。冷たくて、本当に甘くて、美味しいお水でした。(ちょっと雨がまじっていましたけど・・・)
そのあとも雨の滴る中、登り続けます。雨は少しだけ小降りになってきて、「10/8」ぐらいまで登ってくると、このまま塩見岳に行かずに帰るのがもったいないという気分になってきます。
6時半に、ようやく三伏峠の三伏小屋に到着しました。小屋の人が「天気悪いねー」って声をかけてくださるほど、あたりは一面の霧。そして小雨。
まずは、小屋の外のあずま屋にお邪魔して休憩し、朝ごはんをいただきます。
駒ヶ根のSAで買ったソースカツサンドを食べると元気がでたのか「雨も小ぶりになったし、ここまでのコースタイムも1時間縮まってるし、もう少し行ってみよう」という気分になってきました。とはいえ、今、三伏小屋まで登ってきた女性の方が「この雨なので諦めます…」と、下山を決意していたので、少し不安な気持ちにもなりました。
そこに、昨日塩見岳に行って、今晩は三伏峠にテント泊したというお兄さんがやってきて「昨日は曇りでガスっていたが、山頂まで行ったら展望があった」とのこと。「山は行ってみないとわからないですよ〜」と、ダメ押しの一言を頂きました。
ということで、とりあえず「本谷山」まで行って様子を見ようということで、先を進みます。(この時点、本谷山まで行ったらもう行っちゃうだろうな・・・と思っていましたが・・・)
三伏小屋から本谷山を経て塩見小屋
三伏峠から三伏山までは20分程度登ります。あたりは霧がたちこめていて、稜線と思しきところに出ても展望はありません。テント場を通り過ぎて、少し登るとすぐ三伏山です。
三伏山から本谷山へ向かいます。すこしゆるい下り坂が続き、樹林帯の中をほぼ水平移動。
途中に「のぞき岩」というスポットに出ました。
崖の上に岩が突き出ています。その向こうは真っ白な霧の世界ですが、岩の上に登って下を覗き込むと、おお・・・結構な高度感があります。岩から下は崖になっていて深い緑の森が眼下に広がっていました。
そのまま登っていくと「本谷山」に到着です。朝8時。三伏小屋から1時間弱、雨はもう止んでいました。ここから「塩見小屋」まで1時間半。幸い強風でもありませんし、ここまで来たら塩見岳に登ると決めて、先を進みます。(やっぱり…)
「本谷山」からは樹林帯の中を緩く下りながら横移動しつつ、徐々にコルへと下っていきます。登りではないため、ここはほっと息がつける道です。
降りきったら、今度は「塩見小屋」に向けて登り始めます。だいたい30分弱、やや急な登り。最初は苔の緑がきれいな樹林帯を通り、小屋手前になってくると稜線に出ます。この時点で雨風はほぼなく、ガスってはいるけど穏やかな気候でした。
やっと「塩見小屋」の看板が出てきて、11時半に塩見小屋に到着。心配していたほど雨もふらず、無事にここまでやってきました。
塩見岳手前の最後の急登を登るための準備として、少しパンを食べました。エネルギーをつけないと標高3000mの急な坂は登れない…。
何がなんでも登頂する!と考えて、先に「塩見小屋」で「塩見岳」の山バッチを購入しました。(700円)小屋の人が、「さっきちらりと塩見岳が見えたよ」と仰っていたので、雲が切れることを期待して、塩見岳に挑みます。
奇跡の晴れ間、塩見岳の展望に感動
塩見小屋を出発して登りに差し掛かると、うっすらと霧が晴れてきました。ぼんやりと周囲の山も見て、行く先に高い山の影も見えました。おお、あれが塩見岳か!と思って降りてきた人に聞いたら「あれは塩見だけじゃないです」と言われてしまいました…。なんだ、がっかり塩見岳か…。
登山道は今までの土の地面ではなく、岩稜帯になりました。大きな岩をよじ登る箇所が何箇所も出てきます。ここまで歩いてきて疲れた足に、足を高くあげる岩登りがかなり堪える。思ったように足も上がらず、標高が高いから息もあがってスピードが出せない…なかなかにシンドイ登山です。
がっかり塩見岳のピークを越えたところが、塩見小屋〜塩見岳の道の約半分。まだ先はあるのか…と思いながら進みます。
霧の向こうに一段と高いピークが見えました。その後ろのもう一つピーク。きっとあれが塩見岳の西峰と東峰ではないかなぁ…。
道のりは険しく、岩をよじ登り、鎖を掴み進んでいきます。息があがり、一歩進むたびに一息つきます。
救いは、少しだけ霧が晴れて見通しがよくなったこと。きっと山頂は晴れるに違いないと希望を胸に最後の急登をすすみます。
途中、一面のお花畑に差し掛かりました。白い可憐な花の群生。岩の間に咲く黄色い花。
高所の岩稜登山にめげる気持ちを元気づけてくれました。
山頂に近づいたところで、また雲が覆ってきて急に雨が降ってきました。慌ててレインウエアを着ます。さっきまで晴れる!と思っていたのに、今度は「これじゃあ山頂は真っ白かな…」と、がっかりしました。
そして10:30、ようやく「塩見岳西峰」に到着しました!雲が多いけど、雨はやんでいました。短時間に降ったり止んだりを繰り返す天候のようです。
駐車場を出発して6時間半。登頂できて本当に良かった!途中で諦めないでよかった!
霧もチョット晴れて、「東峰」が見えたので、先に行ってみることにしました。「東峰」までは3分くらいの距離です。
東峰に着いた時、一瞬霧が晴れてきて、周囲の山がちらりと見えました。
どうやら高い雲と低い雲の間に立っているような感じです。うっすらと陽がさして、私達の登頂を祝ってくれているかのよう。雲の間に青空もみえて、北岳につらなる「北俣岳」や、名もなき山の稜線も見えました。感動です!山の神様がご褒美をくれたみたい。
風も雨もなかったので、しばらく頂上で景色を楽しんだら、下山を開始します。今来た長い長い道を戻って、今日中に下山するという、なかなかのハードスケジュールなのです。でも、無理なペースでなかったせいか、まだ元気。7割ぐらいは力があまってそう。このくらいだと、日帰りも現実的ですね。
塩見岳山頂から岩稜帯を下山していく途中に、眼下に「塩見小屋」が見える瞬間がありました。おお!晴れた!と思っているのもつかの間、また雲が覆ってきて雨がぱらつきました。
結局、今日は不安定な1日のようです。
塩見小屋から三伏小屋へ。地味にきつい登り返し
塩見小屋に戻って、今度は長い下山に備えてのエネルギーチャージ、ランチタイムにしました。スタミナつけるために買ったハンバーガー。かなり元気チャージです。
塩見岳でトイレを借りようと思ったのですが、ここは携帯トイレが必要でした。持ってきてないから…と思ってやめましたが、携帯トイレは小屋で売っていて、かつその場で捨てられるようです。
塩見小屋からは下りになります。さきほどの山頂からみた低い方の雲の中に突入するので、やっぱりあたりはガスっていて、雨もぱらついています。レインウエアを着て歩きましたが、暑くて途中は脱いでしまいました。
下りきって、少しトラバース道をすすむと、今度は本谷山まで登りになります。たいした長さでも急でもないのですが、疲れた足にじわじわと疲労が溜まってくる登り…7割あまっていた力が5割に…。
登りきったら本谷山かと思いきや、本谷山までは遠く、樹林の稜線沿いをひたすら進んでも進んでも山頂にたどり着かない。しかも地味にゆるい上り坂で、なかなかスピードが出ませんでした。
もう山頂なんて来ないんだ…と、ひねくれた気持ちで諦めかけた位で、ようやく「本谷山」の山頂に着きました。ここから次のピークは三伏山です。
三伏山までも、急ではないものの基本的にずっと登り。この緩い上り坂が、疲れた体に堪えます。5割残っていた体力が4割まで減少…。
三伏山に到着したら、三伏小屋へはほぼ下りで、すぐに着きます。
三伏小屋にたどり着き、外の東屋で休憩をとらせてもらって、ほっと一息。ここで最後のエネルギー補給。もってきたパンの最後を頂きました。
ここで、今日、駐車場からあがってきて三伏小屋で1泊、明日塩見岳に行くというご夫婦に会いました。塩見岳奇跡的に展望があったとう話をすると「いいですね、明日も展望があるといいな」と仰っていたので、「山は何があるかわからないですよ」と、したり顔で、行きにここでお兄さんに言われた言葉を返したりしました。
三伏小屋から駐車場へ
さて、最後の長い下りです。三伏小屋から駐車場へ、1000mの高低差を下山します。雨もぱらついて、道も滑りやすいし、途中は急な坂道もあり、それほどスピードは出ませんでした。
丸太を組んだ階段や橋が出てきて、雨で滑りやすそうで、ヒヤヒヤしながらも慎重に下ります。
雨はどんどん強くなってきます。行きも同じところで雨が強かったので、雲がたまる標高だったのかもしれません。
途中、「仏の湧き水」を喉を潤します。この水でコーヒーを飲もうと空いたペットボトルに水をくみ、先を急ぎます。
雨に濡れた南アルプスの森は、霧の中で緑が特に濃く見えました。天然水が育まれるこの緑の山は目にも優しく、心も癒やされます。雨ならではの絶景ですね。
15時20分、登山口に降りてきました。2時間の行程を1時間半で下山。疲れてたし、足はいたいし、体力の余力は残り1割り程度でしたが、がんばった!
ここから30分、林道を歩いて駐車場へ戻ります。林道では雨が止んでいて、少しだけ展望がありました。
16時、駐車場に到着しました。出発からおおよそ12時間、長い行程の日帰り塩見岳でした。行く前は、無理なんじゃないかと思っていた行程でしたが、だいたいコースタイムの0.8ぐらいで歩くと、休憩もとって12時間程度で行って帰って来れたので、結果的に日帰りは十分可能なんだな、と思いました。
少しハードではありますが、時間がない方は日帰り塩見岳にチャレンジしても良いかと思います!